第3回 2004年11月30日(火)

浄妙寺

 報国寺から、もう一度、華の橋にもどって上流沿いに約100メートルで「浄明寺」のバス停でございます。「浄妙寺」のはずが、なぜか「浄明寺」。住所表示も「浄明寺」となっているとは不思議。近くの店の人に訊いてみても、「昔から明の字だね」というだけで、明答は得られずじまい。少々ふにおちない気分で、バス停先を左折しますというと、時節がら、もちろん花などつけているはずもありませんが、桜並木。その突き当たりに浄妙寺の総門が見えております。

「出たァ!」
 門の下に猫が寝そべっているではないか。
 報国寺で大猫の話を思い出したあとだけに、驚きましたとも。しかし、この猫、なかなかの愛嬌もので、わたくしを見つけると妙
(たえ)なる声を発しますというと、「やあ、いらっしゃい。さぁ、ついておいで」と言わんばかり、そそくさと門内へ導いてくれるではありませんか。もちろん独り合点ですが、「妙」の字のナゾが解けた思いがいたしました。これからは、せいぜい猫と仲良くさせてもらおうと心に決めました。
 こちら稲荷山浄妙寺は、いわずと知れた、鎌倉五山の一つに数えられる臨済禅の名刹です。五山といえば、京都のも有名ですが、日本の臨済禅は、ここ鎌倉から興ったことをお忘れなく。
 当寺を訪ねた人なら、誰しも、しばしかたずを飲んで見守るのが、本堂の屋根でございましょう。銅ぶきの、ゆるやかで優美な曲線を描くその形状は、参詣者を威圧することなく、温かく包み込んでくれます。
 ご本尊の釈迦如来に手を合わせたあとは、中興開基、浄妙寺殿貞山道観として葬られている、足利尊氏の父・貞氏の墓前にぬかずくのが礼儀というものでしょう。
 本堂裏の喜泉庵にあがって、枯山水の庭園を眺めながらいただく抹茶の風味もひとしお。さらに、山上を目指すのも忘れてはなりません。山上といっても、きつくもない坂道を数分で着きますから、ご安心を。
「オヤッ」
 まるで避暑地の豪華な別荘かと思われる建物が見下ろしているではありませんか。
 これが、「石窯ガーデンテラス」です。食いしん坊のわたくしには、たまりません。
 洋風料理もケーキも申し分なし。ことにおすすめは、焼きたてのパン。なにしろ、石窯で焼いている様子が見えますもの。
 テラスからの眺めといい、しばし、ここが寺のうちであることを忘れてしまうほどです。散策路の花をめでながら歩くのも、優雅な気分にさせてくれます。
 今日は、杉本寺、報国寺と三寺をいっきょに巡ってまいりましたが、最後に一息入れるには、このテラスだと最初からもくろんでいたことを白状いたします。
 ところで、もう一つだけ、ぜひ立ち寄ってみたいところがございます。
 総門の右側の道を境内に沿って登ってまいりますというと、こじんまりとした祠
(ほこら)に出会います。へんてつもない祠じゃないかとバカにしてはなりません。ここが、「鎌倉」という名の発祥地だと伝わる「鎌足稲荷」でございます。
 大化2年(646年)の大昔、大化改新で勇名をはせた、かの藤原鎌足にまつわる伝説にもとづいております。
 この伝説については、あまりくわしくは述べるのを遠慮させていただきとう存じます。なぜかと言いますと、キツネがからんでいるからです。しかも白狐。わたくしども狸は、いつも笑いのネタにされますのに、キツネどもは神様のつかいとやらで、いい役を独り占めですもの。