第7回 2004年10月31日(日)


鎌倉でいちばん明るい寺、
長谷寺


 日曜日だが天気予報では曇りがち。だから観光客は少ないだろうと思ったが、団体客、とくに外国人の姿が目立つ。
 長谷観音、正しくは海光山慈照院長谷寺。山門をくぐると、いきなり開放感に包まれるのは他の寺では味わえない趣きである。おりから、陽光が照り始めてくれたから、なおさらである。
 この季節は、紅葉がほんのり色づく程度で、花の色も少ないが、殺風景さはみじんもない。池畔をめぐり石段を登って本堂前に出る。登るにつれて、徐々に海が臨まれてくる。見晴台からは、由比ガ浜、材木座海岸が間近に見え、逗子マリーナまでくっきり。山号が海光山という意味が、おのずから納得できる。
 さらに、しばらく修復中だった、山腹をめぐる遊歩道が完成したために、足下に境内全景、かなたに海を眺めながらのハイキング気分を味あわせてくれる。
 ぞんぶんに開放感にひたり満足して、そのまま帰ってしまう人もいるようだが、それでは後悔することになる。もう一箇所、これまでの明から暗転する風趣も味わってほしい。弁天窟である。
 窟の壁面に刻まれている、弁財天と十六童士たちの前に、参拝者が思い思いの願いを記したローソクが燃え、幽玄な雰囲気をかもしだしている。
 窟をくぐりでると、ここにも願いをこめた絵馬がずらり。横文字の絵馬に思わず目がとまる。「ボストン・レッドソックスがワールドシリーズで優勝しますように」という意味のものが2枚。いずれも、外国人の手になるもののようだ。
 この願掛けが通じたのであろう。レッドソックスは見事にワールドチャンピオンになったではないか。これを書いた外国人は、優勝の瞬間、たぶん「ヤッターッ」と日本語で絶叫したはずである。
 観音様は、現世利益にかかわる仏様だから、当然の結果なのかもしれない。
 山門を入るときとちがって、出るときの気分は、あきらかに違っていた。明るく、さわやかなものに変わっていた。